恐慌でも生き残る(2):『不安感』にうまく対処する
■ピンチをチャンスに!
前回のエントリーに引き続き、『恐慌でも生残るために今しておくこと』の続きを書いておきたい。『恐慌』というのは、まだ言い過ぎではないか、とは自分自身このエントリーを書く時に躊躇したくらいだが、わずか1〜2日の間にさらに状況が緊迫してきているのは、皆さんも感じられているところだろう。日経平均株価も、8,000円台を割り込む恐れがある、と前回は書いたわけだが、23日には、あっさりとその8,000円台を割り込んでしまった。 身がすくむような状態だが、だからこそ、頭を切り替えて準備しよう。ピンチをチャンスに変えることができるように。
■前回のエントリーを振り返ると
前回上げた、3つにのポイントをもう一度振り返ってみたい。
1. 低価格だがセンスがいい
2. 『不安感』にうまく対処する
3. シフト先を押さえる
前回は、1. 低価格だがセンスがいい について述べた。不況期というのは、どんな消費者であれ、購買行動のあらゆる決断の局面で、コストの比重が大きくなることを覚悟しないといけない。ただ、コストを下げ、価格を下げるだけではない、というのがポイントだ。
しかもセンスの良さをここで強調しておきたいもう一つの理由は、世の中全体が不況に覆われた場合、低価格シフト志向は、低所得者だけではない可能性が高いからである。本来低価格シフトをする必要のない、高額所得者の消費行動も、低価格シフトすることが考えられる。不況期に、これ見よがしに高価格なものを買うことを見せつけるのは、あまり品の良いこととは言えない。むしろ、安いがセンスのよいものを選ぶことが、『クール』と評価される可能性が高い。アメリカの映画スター、若手実業家らがこぞって、低燃費者として知られるトヨタのプリウスを購入して、アカデミー賞の表彰式の会場に乗り付けるような行動がそのよい例だ。そして、その消費行動はそういう人達に誘導されて他のクラスにも広がって行くだろう。
■『不安感』にうまく対処する
これは、うまく書かないと、人の弱みにつけ込むよなニュアンスになると心外なのだが、よいマーケターは、こういう時期に起こる消費者のマインドの変化は見逃さない筈だ。例えば、不況期には、アルコール類(酒)、映画、家庭用娯楽製品等が売れる傾向がある。これをもう少し整理してみよう。
以前に、経験経済のことを述べた時に引用した、経験価値を見つけて行くためのキーワード( 『MOTアドバンスト新規事業戦略』*1より抜粋引用させていただきいた(P39〜P52)、SRI*2のキーワード)をもう一度使うのが解りやすそうだ。『不安感』が広がった場合に、人はどのようなものを求めるのだろうか。少なくとも、自然に下記のキーワードは思い当たるだろう。
マーケティングにおける『経験』経済の重要性について - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る
(1) 逃避系:
これは倫理的な問題にも抵触しかねないが、こういう需要は間違いなく増えるだろう。低価格で提供できることが必要だが、ゲーム、娯楽施設、低価格でセンスのよいレストラン・居酒屋等が該当する。インターネット系の多くのサービスも該当する。
Escape(現実から逃避する、心を休める)
現実を忘れて、別世界を経験する。娯楽等。
Warp(気を紛らわせる)
一時的に不安を忘れさせる。医薬、アルコール飲料、
レストラン、料亭、居酒屋等。
Numb(すべて忘れて耽る)
Warpと同じ領域ながら、さらに積極的な行動を伴う。
酒、タバコ等。
(2) いやし系:
逃避とは若干違った意味で、心の癒しを必要とする人は増えるだろう。『Heal 』は、この時代の最も注目すべきキーワードとなるのではないか。日本ではあまり浸透していない、カウンセリングのような業態が盛り上がることも考えられる。思想性があまり前面に出ない、ソフトな宗教も流行る可能性が高い。(すでに流行っているというべきかもしれない。) また、人間的な交流への希求は、あらためて強くなる可能性が高い。SNSがリアルとの交流を含めて、一層進化する可能性があると考える。『危機感』の強さは、こういう時には、むしろ『原動力』となるからだ。
Heal(健康を求める、心を癒す)
肉体的な健康の回復、精神の健康回復。サイコセラピー等。
Enrapture(感動する)
芸術、文化。映画、音楽、コンテンツ産業等。
Participate(参加する)
スポーツ、イベント、最近ではmixiやモバゲータウンのようなSNSも
含むかもしれない。
(3) チャレンジ系:
苦境になれば、自分を高め、自らの経済価値を高めることで、そこから自力ではい出そうという自覚を高める人は増える。実務的な教育(MBA、法科大学院等)や社会人向け各種勉強会等は活性化するだろう。もちろん、子供の教育投資は、他の出費を切り詰めてでも優先しようとする切迫感が強くなると思われる。
Instruct(数える)
教える、教わる。生涯学習、セミナー、勉強会等
Create(創造する)
最も経験産業を象徴するターム。商品デザイン、コンテンツ産業、
ソフトウェア、創造ビジネス等。
(4) 新価値追求系:
通常のビジネスのような既存の価値を超えて、自分の世界を内的に広げて行こうという気持ちが強くなる人も増えるだろう。物的な欲望だけでは、真の満足を得られないことにあらためて気づくということもあるかもしれない。ある意味で、今までの生き方を振り返るきっかけになる時期でもある。『自分探し』はもっとずっと深刻で真剣なものになるだろう。旅行についても、単なる観光から、秘境への旅、冒険的な旅行へシフトする可能性もある。
Cultivate(教養を身につける、心を磨く)
文化を創る、教養を身につける。教育事業等。
Edify(悟りを開く)
モノがあふれると精神的空白が生じやすい。宗教等。
Venture(冒険する)
冒険的旅行、ベンチャー起業設立、事業性個人主導社会等。
■ビジネスチャンスでもある
以前は、『経験経済』を、物が溢れ消費意欲が無くなっていくという、所謂『消費のポストモダンの文脈』でご紹介したのだが、興味深いことにこうして整理してみると、不況、さらに恐慌というような非常事態においてこそ、注目すべき点が数多いことに気づく。自動車のような高額耐久消費財、住宅の取得、株・不動産・その他金融商品等が中心の従来消費行動は、上記のような、精神性の割合の高いものに急激にシフトする可能性が高い。
日本の『失われた10年』のように、夢や目標を喪失しても、ある程度物的には満たされ、だらだらと過ごす余裕があった時代から、もしかすると、もっと大きな痛みが伴い、生残ることに真剣に取組まざるを得ない時代が来るとすると、それはむしろ『エネルギーの強さ』が引出されることになり、その結果上記のような活動、産業は局所的にかもしれないが、活性化する可能性がある。ある意味でビジネスチャンスそのものである。そして、そのビジネスチャンスを生かそうとするエネルギーの強さは、社会や国を活性化して、不況のどん底から脱出する契機となるという意味では、最も望まれる社会への貢献ともなる。
次回は、シリーズ第三回目、3. シフト先を押さえる について述べてみたい。
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