『佐々木俊尚氏の有料メールマガジンが面白い』と私が思う理由

佐々木俊尚氏の有料メールマガジン


佐々木俊尚氏の有料メールマガジン佐々木俊尚のネット未来地図レポート)を、配信開始と同時に拝読しているが、事前の予想以上に面白い。現在まで、3回の配信があり、それぞれ以下のようなタイトルで、ITネット関連の最新情報の紹介/分析がメインの内容となっている。


  • Amazonの『Kindle』はなぜ成功したのか『非PC』から『PC不在』への大転換 8月18日(vol.003)


最近の佐々木氏は非常に多くの著作を発表されていて、どれも本当に面白い。多くは、佐々木氏が行う、多くの人へのインタビューをベースにして、IT・インターネット関連の最新事情についての現状や展望を語る形式で、現場の生々しさと、佐々木氏の豊富な経験に裏付けられた見識に溢れており、考えさせられることも多い。 最新の著作である、『インフォコモンズ』*1については、7月23日付の私のブログエントリー佐々木俊尚氏著『インフォコモンズ』を読んでみた - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観るで書評を書いてみた。 今回始まったメールマガジンは、その著作『その後の現在』がテーマとして取り上げられている感じで、大変新鮮だ。


IT・インターネット業界は、本当にスピードが速くて、ある時点のどんなに優れた見解であっても、状況のちょっとした変化によって陳腐化してしまうことも多い。一方、佐々木氏の著作は、読み手にとってはその時点のことを振り返り、共に考え感じるためのガイドとして読めるものが多い。そういう意味では、ブログやメールマガジンのようなメディアが本来一番ふさわしいと考えていた。そのため、有料ブログの案内があった時、購読を即断した。



マイクロ・インフルエンサー


たとえば、8月4日の、『「マイクロ・インフルエンサー」はクチコミ情報を集約させる』だが、ソーシャル・メディアとして利用者が急増している、クックパッドレシピ検索No.1/料理レシピ載せるなら クックパッドという料理のレシピのクチコミサイト(35万もの料理レシピが蓄積された世界最大規模のサイト。ユニークユーザーは約400万人)や、今やオンラインDVDレンタル最大手のTUTAYA DISCASTSUTAYA DISCAS ツタヤのネット宅配レンタル|ツタヤ ディスカス 無料お試し実施中のレビュー広場というDVDのレビューサイト(約2万7000人のレビュアー。レビュー総計26万件)を紹介しつつ、その成功の理由について、分析している。 


このようなユーザーによる口コミサイトに限らず、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)等のコミュニティーサイトの成功の秘訣の一つに、コミュニティーを盛り上げるための、インフルエンサー(影響を与える人)の存在が重要であることは、異口同音に語られて来たことだ。ただ、佐々木氏の記事の主張は、今回例として取り上げたサイトの成功は、参加者の比較的小さいコミュニティのメンバーに影響を与えて、情報の流れの軸となり、結果的にサイト全体の拡大に寄与するのは、氏が『マイクロ・インフルエンサーと呼ぶ存在であり、その『マイクロ・インフルエンサー』が活動しやすい設計のたまものであるということだ。



『マイクロ・インフルエンサー』は、すべての会員に対して影響を与える人ではなく、影響を与える範囲は小さなコミュニティーのメンバーに限定されるが、むしろそれゆえに強い影響力を持つインフルエンサーのこと
だ。そして、そういうマイクロ・インフルエンサー率いる小規模だが凝集力の強いコミュニティーを数多くつくっていくような仕掛けが成功の秘訣ということになる。



前著書での布石となる議論


興味深いのは、佐々木氏の『インフォコモンズ』に、この件の布石となる議論が展開されている。情報共有圏(インフォコモンズ)成功の必要条件として、著書で上げられたのは、下記の4点だった。


* 暗黙ウェブである
* 信頼関係に基づいた情報アクセスである
* 情報共有権が可視化されている
* 情報アクセスの非対称性を取り込んでいる


この4つ目の、情報の非対称性について、アルファブロガー等のインフルエンサーの需要性が示唆されている。そして、複雑ネットワーク理論をベースにしたスケールフリーネットワーク(一部の中心的存在が膨大なつながりを持っていて、その他大勢はごくわずかなつながりしか持たないようなネットワーク)による、『多対多』ネットワークの大きな可能性について言及されている。今回のメールマガジンの内容は、ここで示された内容の一部を、クックパッドTUTAYA DISCASの例を引きながら、インフォコモンズでの議論を一歩先に進めたものと言える。下記、引用部をご参照いただきたい。

Web2.0は情報をフラット化すると言われた。たしかにマスメディアとブロガーの位置は対等になったけれども、だからといってが、すべてのブロガーがフラットになったわけではない。当然のように影響力の強いブロガーとそうではないその他大勢のブロガーが存在し、そこには情報アクセスの非対称性が存在している。その情報アクセスの非対称性を、うまくクチコミコミュニティにも盛り込むことがいまや強く求められているのである。


このような内容は、今読むことに価値がある。読者も、佐々木氏が行っている思考実験にリアルタイムで参加することができるからだ。




アメブロ成功との関係は?


ちなみに、この議論の当然に帰結として、タレントや有名人を起用するような、いわば『マクロ・インフルエンサー』拡大による戦略は、口コミサイト拡充を目指ための戦略としてはあまり賢明ではないということになるはずだ。期待にたがわず、今回のメールマガジンには、その点についてもふれてある。以下、引用する。

インフルエンサーの導入というと、すぐにタレントや有名人、識者などに会員として入ってもらってエッセイを書いていただいてーーという発想をする人がいる。しかしこうした有名人は「すべての人に対して広く浅く影響を与え人」すすなわち一般的なインフルエンサーにはなれるかもしれないが、同じ趣味志向を持つ小さなコミュニティの中で「少数の人に対して深く大きな影響を与える人」、つまりマイクロ・インフルエンサーにはなり得ない。だからタレントは、クチコミサイトのインフルエンサー戦略としては間違っている。


マイクロ・インフルエンサーは、単にコミュニティを活性化させるための仕掛けではない。インターネットのコミュニケーションというのは、拡散しやすく、放っておくと、拡散して情報の密度は薄くなり、情報の検索も難しくなってしまう。2ちゃんねるがその良い例だ。「まとめサイト」がなければ、どこになんの話題があるのかを見つけることさえできない。


リアルタイム、ということが面白いと私が思うのは、そのタレントや有名人を起用して、拡大を続ける、ブログサービスの『アメブロ』がビジネスとして非常に存在感を増して来ており、『アメブロ』を運用するサイバー・エージェントの藤田社長が自信たっぷりに語る下記のような記事が一方の手元にあったりすることだ。

アメブロが大成功狙える時期にきた--サイバーエージェント藤田社長に聞く - CNET Japan



また下記のように、『株式会社はてな』の運営するブログサービスである、『はてなダイアリー』が低迷している一方で、アメブロが成功していることを対比するようなブログエントリーも出て来ている。

2008-08-23


もちろん、部分的に比較して見ても意味のないことだし、そもそもここでは、コミュニティーサイト運営者にとって、また別な重要な問題が喚起されている。ブログサイトがコミュニティーサイトなのか、という視点もあるだろう。当然私自身の個人的な見解はあるが、是非皆さん自身で考えてみていただきたい。また、佐々木氏に直接質問(することができる)してみるというのも一考かもしれない。



引用はいいらしい


尚、今回の私のブログエントリーでの、佐々木氏の有料メールマガジンからの引用については、8月11日号の、『佐々木俊尚からひとこと』で言及のあった、引用にかかわる佐々木氏の発言をベースとしていることもあわせて申しあげておく。

またメールマガジンの内容は、全文引用はもちろん避けていただきたいのですが、内容の紹介や一部引用は構いませんので、ブログなどでついでに宣伝していただけると幸いです。(8月11号)

*1:

インフォコモンズ (講談社BIZ)

インフォコモンズ (講談社BIZ)