ボーダーレス消費の拡大

マーケットセグメントの重要性


6月10日のブログで書いたように、変質した日本市場へのアプローチ - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る 市場を把握して、効率的にアプローチするためには、調査データ等を元にマーケットを細分化(セグメンテーション:市場をある性質によって分け、それぞれに対し、最適な戦略・試作を立案・実施することを可能にする行為)することは非常に重要である。この能力の巧緻がマーケターの能力をためす登竜門と言ってもよい。逆に言えば、このセグメンテーションの把握が間違っていると、マーケティングの費用対効果が悪くなるだけではなく、次の策をうつにあたっても後手に回ることになる。


人口統計学的な分類の有効性


フィリップ・コトラー氏が説くように、人口統計学的な分類は大方どの市場でも有効なことが多い。中でも、年齢別、男女別の分類は、日本では非常に有効とされてきた。特に、地方から都市部への人口集中が進んだ高度成長期には、右肩上がりを前提として成立していた企業社会において、男女の役割が明確で(男は仕事、女は家庭)、同調圧力が強く、他者の役割期待通りに行動することが非常に重要だった。さらには企業内の序列が社宅等の住環境にも持ち込まれるケースも少なくなかったため、消費もライフステージで整然とセグメントされていたし、男女別の嗜好はかなり明確に区別することができた。すなわち、年齢別、男女別に市場を分けてみると、非常にそれぞれが違った特性を持った市場に分類することができたものだった。


何度か申し上げている通り、こういう構図はバブル崩壊から、失われた10年を経てほぼ崩れたと考えられる。そしてセグメントは型通りには行えなくなった。しかしながら、そうは言っても、一定以上の年齢層には過去の残像とも言える消費性向は根強く残っているし、女性の社会進出が進んで来たとは言っても、国際比較で見ると、先進国の中ではかなり遅れている部類に入るだけではなく、特に女性は出産後には勤務を辞めてしまうケースがまだ相当に多い。想定内の変化と考えて来た。


ボーダーレス消費の拡大


しかしながら、実際の消費の現場では、いわゆる『ボーダーレス消費』と言われる、年齢差、性差を超える消費が続々と起きて来ている。それも、原因や表出の仕方も大変多様なようだ。

日経トレンディの08年8月号によれば、『脱力オトコ』と『ボーダレス女子』をキーワードとする、新しい消費の傾向が見えて来たという。ヒット商品の意外なトレンドとは? 「日経トレンディ」渡辺編集長 - 株式会社サクセスワイズ 村田美夏 Memo


この二つのキーワードは、下記のように定義される。


『脱力オトコ』     : 自分の世界にこもり、感性に合ったものだけを
              ピンポイントで消費し続ける男性


『ボーダーレス女子』  : あらゆる方向にアンテナを張っている女性たちのこと。
              実感ある「本物」を求めて積極的に消費し続けている



これに多少関連する概念として、ファッションにおける、『ユニセックス』化については、近年のユニクロの興隆ともあいまって、すっかりおなじみになったキーワードだが、その背景として、女性については、その社会進出が進んだ結果、従来の女性ファッションが必ずしも機能的でないため、より機能的な男性衣類を選ぶ人が増えていることが原因とされており、比較的わかりやすい。しかし、男性が女性のカラーバリエーションを着こなそうとしているような、ユニセックス化については、必ずしも明確な原因が特定しきれていないという印象がある。


女性の社会進出の影響


日経トレンディ08年8月号によれば、女性のボーダレス消費の実例は、ファッションのユニセックス化におけるキーワードである、『社会進出』の影響が大きいと言ってよさそうだ。

■女性たちは男性向けであろうと自分より若い世代を狙った商品だろうと、納得すれば性別や年齢に関係なく取り入れている。■例えば化粧品口コミサイトの「@cosme」のシャンプー部門では男性向けの「サクセス薬用シャンプー」が人気ランキングの3位だった。頭皮のべたつきを気にしていた女性に受け、クチコミで一気に広まった。■20代の女性が100円ショップで買う商品の1位は10代を中心に売れている付けまつげとなっている。40代の女性がカラオケでよく歌う曲のなかには大塚愛絢香のものが入っている。ヒット商品の意外なトレンドとは? 「日経トレンディ」渡辺編集長 - 株式会社サクセスワイズ 村田美夏 Memo



女性が、自分や他人の『女性像(年齢像を含む)』にとらわれることなく、本人にとって、非常に合理的な選択をしていることがわかる。


07年の白書を見る限りでは、女性の社会進出については、日本や諸外国と比較すると非常に遅れているといわざるをえない。*1女性は家庭を守るべきという意識も、フィリピンについで強い*2。しかしながら、諸外国と比較するとスローペースとはいえ、日本でも女性の社会進出は進んできているし*3、社会進出をすることによる社会的な容認も進んできている。今後は、若年労働人口の急減という社会的な要請もあり、社会制度の改善等もある程度進むことが予想されることもある。女性のボーダーレス消費は拡大していくと見てよさそうだ。


脱力化/乙女化する男性


では、男性はどうなのか。


ボーダーレス消費という点で言えば、脱力オトコ以上に、『乙女男子化』のほうがポイントのように見える。

男性の消費の隠れたトレンドとは

■男性なのに“乙女グッズ好き”だということだ。例えば今、男性ファンが急増しているのが、かわいい着ぐるみのクマのキャラクター『リラックマ』で、コンビニで人気のキャラクター第1位。だらだらしたしぐさや脱力系の発言に共感し、「オフィスでいやされたい」と買っていく男性が多いようだ。■ほかにも“乙女化”の傾向はある。ギャル御用達のデコショップの上位に腕時計「Gショック」が入った。男性による持ち込みが増えている。ヒット商品の意外なトレンドとは? 「日経トレンディ」渡辺編集長 - 株式会社サクセスワイズ 村田美夏 Memo

"乙女化"した男性には特徴があるのか

■「日経トレンディ」8月号では「俺のピンク」という見出しをつけたが、ここ数年、ファッションにピンクを取り入れる男性が急増。この流れはデジタル男性だということから男性がピンクを買っている可能性は高い。■色彩の専門家によると、「今のように社会の不安意識が高まると、精神的な幸福を求める気持ちが強くなる」という。ピンクはもっとも幸せのイメージが最も強い色だ。男女の性別や年齢を越えた“ボーダーレス消費”の傾向は商品の色にも変化を及ぼしている。ヒット商品の意外なトレンドとは? 「日経トレンディ」渡辺編集長 - 株式会社サクセスワイズ 村田美夏 Memo


脱力と乙女の相互作用で、性差を超えた、男性側からのボーダレス消費が活性化してきているようだ。



晩婚化/非婚化の影響が大きい?


男性の乙女化の原因はなんだろう。重要な仮説の一つは、晩婚化/非婚化比率の上昇だろう。昨今では、30才台前半の男性の未婚比率は約43%である。およそ二人に一人は独身だ。 そして、この結果でありまた原因であるとも言えるのだが、社会的な男性の役割意識の低下、ロールモデルの多様化等も進み、『男らしさ』を強要される機会も減って来ている。その結果、自分の感性を自然に表現することに抵抗がなくなっていると考えられる。では、今後この傾向はどう変化して行くかと言えば、結婚願望があっても、経済的な不安感から結婚できない人も増えていく可能性が高く、当面晩婚化/非婚化のトレンドが急旋回することは考えにくい。当分男性の乙女化、男性からの消費のボーダーレス化は進行して行く可能性が高い。


マーケターの立場から見ると、先入観に捕われない、柔軟な姿勢を失わず、統計数値から見られる消費性向のちょっとした変化や意外な事実を見逃さないことが一層大事になりつつある。

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