嵐の前の静けさの中のIT・電機業界 

iPhoneがとうとう日本へ


iPhoneが発売されて、取り合えず、導入フィーバーは一段落し、ネット系のメディアでも、比較的冷静な評価記事が出てきている。*1 私が6日15月のブログエントリーで少し書いたようなiPhoneは日本で売れる? 売れない? - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る、日本の既存の携帯電話との比較での使いにくさについても、実際に手に取ることによって、気づく人が出てきている。 しかし、それでも尚、美しいガジェットとして、あるいは今まで経験したことのないインターフェース等高く評価する人は多い。日本でも、 iPod Touchという形で市場には出ていたわけだから、電話機能を除けば、そのテーストを先んじて感じた人も沢山いるが、今回のように携帯電話のカテゴリーのセンターラインに、訴求することによって、広く日本市場全体に、それがいったいどういうものなのかをこれから知らしめることになる。 


IT業界は停滞している?


今年の日本のIT業界は、iPhoneを除けば、華々しい話題に乏しい。昨年までと比較すると、明らかに一服感がある。この状況を称して、Web2.0の小バブル崩壊という言い方をする向きもある。確かに、そもそもバブルがあったのか、という見方もある。特にIPO*2 という点では、Web2.0の話題が最も盛り上がっていた1〜2年以前に遡っても、ほとんどこれといった成功事例があったわけでもなく、最も大きな話題となった、YouTubeも、約2,000億円というとてつもない金額で、Googleが買収して話題にはなったが、現段階でも、YouTubeが単独黒字化したという話しは伝わってこない。


では、所詮は空騒ぎだったのか。


業界の希望的憶測と言われてしまいそうではあるが、もちろん空騒ぎなどではなかったし、実のところ、過去これほどの『嵐の前の静けさ』はなかったのではないか、と個人的には感じている。 今の日本には強い停滞感がある、と言われる。だが、本当に起きているのは、『再構築』だ。従来の構図、従来の枠組み、従来の関係などが溶け出し、つなぎ方が変えられれ、世界はどんどん様相を変えている。慣れ親しんだ環境が壊れていくというのは、不安なものだ。だが、どのような形であれ、市場の大変動はもうまもなく間違いなく来る。私は、iPhoneを見て、それを確信した。



日本の電機業界は大丈夫か?


既存の日本の電機業界(家電業界)を見ていると、戦後営々と構築されてきた、製品開発、販売のサイクルが今もほとんど変わっていないことを感じさせられる。年間の中の商戦期(3月の卒業シーズン、年末等)は決まっていて、それにあわせて、既存の製品の改良版を、新製品として投入する。今年売れればよし、売れなければまた来年頑張ろうというような感じだ。基本的には、これは農業のサイクルに近い。今度はもっと品質を上げよう。コストを下げよう。マーケティングのやり方を改良しよう。だが、前にプロダクトライフサイクルに固執しすぎることのリスクについて書いたが、商品プロダクトライフサイクルからの決別 - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る  この『擬似農業スタイル』が確立した製品市場を見ていると、どう考えてもリスクがある。今にも崩れそうな砂上の楼閣に思えてならない。



すべては解けて融合する


なぜか。 今、製品市場にもインターネットがほぼ全域に浸透してきている。さらにこれからは、製品がワイヤレスでネットにつながっていくこともイメージできる。日本の携帯電話には、カメラ、お財布機能、地図、ナビゲーションなど、どんどん機能が加わってきたわけだが、iPhoneを先駆けとして、今後は携帯とパソコンが極めて境界が曖昧になって行くだろう。そのパソコンは、だんだんとテレビとの境界が曖昧になってきつつある。


テレビはビデオ、特に最近ではDVD/HDDビデオとワンセットになって、タイムシフトやCM飛ばしが起きて来ている。日本では業界の政治力等のおかげでアメリカにおけるTivoほどのインパクトは無いと言われているが、実際にはHDDビデオ所有者の半分はCMを見ていないという統計もあるようだ。また、米スリングメディア社のスリングボックス*3ソニーロケーションフリー*4等の販売は、まだ思ったほど芳しくないようだし、まねきTV問題*5等、法的な問題の影もある。それでも、ロケーションシフトに潜在ニーズはあるため、条件が揃ってくれば、ある時点からは商品としてブレークすることは大いに考えられる。ブルーレイ*6はどうやらHD DVD*7との競争を制したようだが、すでにテラバイト級のHDDがホームサーバーとして実用域に入るのが時間の問題と言われている中、今後どれだけのライフが残っているのだろうか。そして、並行して進むのはサーバーの外部化だろう。


さらに、2011年を迎えて、アナログからデジタルへのスイッチが行われるなら、放送は通信に取り込まれて行く事は確実だ。ステレオ、ゲーム、テレビ、ビデオ、パソコン等それぞれ別々に存在していた製品とコンテンツに関わるビジネスモデルは全部変わってしまうだろう。そこから、新しいカテゴリーの商品が生まれてくるだろうし、当然通信系に強いプレーヤーの参入を招くことは確実だ。アップルはもちろんそうだろうし、マイクロソフトXbox 360等)、インテルViiv*8等)、サムソン等のビッグネームだけでなく、米スリングメディア社等のようなニッチプレーヤーも続々と参入してくるだろう。



嵐の前の静けさ


興味深いのは、これほどの変動ファクターがありながら、個々の製品やサービスで言えば、今までのところ、アップルのような例外を除けば、まだそれほど目立った成功例はない。だが、この状況はまさにダムが今にも決壊する寸前の静けさと感じるのは私だけではないだろう。そして、ダムが一度決壊したら、既存の家電のプレーヤーが作り上げた秩序は完全に押し流され、産業は階層化、融合化が進み、垂直統合は寸断されて水平分業化し、国境をまたいだ合従連衡が起き、いままで聞いた事も無いプレーヤーが数多く参入する、という状況になるだろう。



ユーザーとの接点を大事にして備えよう


既存の市場と伝統的な手法や理論にたよって生き延びて来たマーケターや商品企画担当も、そのままでは間違いなく淘汰されることになる。だが、新しいビジネスチャンスを狙っているものにとって、これほどのチャンス到来もないと思う。停滞などと言っていた平和な時代が懐かしくなるだろう。どんな商品もサービスもコンセプトレベルから再定義しなおさないといけないはずだ。マーケティングも根本から構築しなおさないと機能しないと考えられる。今すでに、ネット系ビジネスで、SNSやブログを通じて、ユーザーとの接点を持って日々研鑽している人は幸いだ。おそらくすぐに来るであろう、大変動期のマーケティングも商品企画も、そういう人たちは自分に大きなアドバンテージを与えられている事に突然気づくだろう。その時、web2.0バブル、ビジネスにならないWeb2.0等と冷笑していた人が、すっかり時代に取り残されていることに気づいて呆然とすることになるだろう。もうそんなに先の話ではない。