希代のトリックスター にしむらひろゆき


トリックスターとは?


トリックスター』という存在がある。


これは、ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名した類型であり、のちカール・グスタフユングの『元型論』で「トリックスター元型」として人間の超個人的性格類型として取り上げられたことで知られるようになった。 いくつかネットでもエントリーがあるので読んでみたところ、次のサイトの定義がとてもわかりやすいので、引用させていただく。


ページ移転のお知らせ



さて、トリックスターとは、なにか? 物語には必ず必要なトラブルメーカーであり、現実世界にだって存在するトラブルメーカー、一見、組織のお荷物。なんというか、何の役にたつのか分からない存在。いたずら者で変幻自在で、何をするか予測不可能な道化。それが、トリックスターです。
 


トリックスターは笑いと破壊性をもってはいます。これは、非日常へ導く為の機能です。笑いでリラックスさせて、あるいは、既存の秩序を破壊してまで非日常性という異世界へいざいないます。



トリックスターは、非常に思いがけない動きをすることによって破壊の後に結合が生じて創造を促す働きをすることが多く、トラブルのさなかでは、秩序という秩序を破壊しまくる存在です。
 


実際、トリックスターの行動だけを見ると、既存の構成された秩序を面白半分に引っ掻き回す存で、やることなすこと「迷惑」のひとこと。それは、秩序に安穏と している人にとって、苦痛をもたらす存在でもあります。
 


しかし、雨降って地固まるというように、周辺と中心をつなぐものという意味を持っています。
覆水は盆には返りませんが、新たなる水を汲むことができるわけです。なぜトリックスターは、既存の秩序を壊そうとするのか? それは、決まりきって硬直してしまった世界に、新しい可能性をもたらす存在なのです。



日本の歴史上の人物では、織田信長が該当すると言われている。確かに、当時の中世的な世界観を、非常に革新的で破壊的な思想をもって秩序を破壊者し(比叡山の焼き討ち等)ながら、結果として日本の歴史に新しい世界や可能性をもたらした。 今でこそ、その革新性、世界性は高く評価されているが、当時はまさにトリックスターそのものであったろう。 そして、結果で見ると、時代が出現を望んでいたとしか思えない、実に不思議な存在でもある。それ以前の時代に信長と同じタイプの人を見つけることはできない。



2000年代を代表するトリックスター


トリックスターというのは、既存の世界が固まってしまって、閉塞感が高まったときに現れるといわれる。 では、閉塞感が非常に強い現在そろそろ現れてもいいのでは、ということになるが、2000年代の典型的で強力なトリックスター、それはにしむらひろゆき氏以外にない。


少し前であれば、それは、堀江貴文であろうという意見も多かったと思う。 確かに、色々な問題も非難もあるだろうが、既存の体制や既得権益者に、破壊者として望んだ堀江氏は、既存の秩序維持者を引っ掻き回した。しかしながら、彼は、ある時点から与党政治に取り込まれ(参議院選挙立候補)、経済社会での成功を求める点では、スノッブそのものであったし、価値観という点では比較的体制側にいたと言える。既存の価値観の持ち主もある程度理解がおよぶ存在だ。(その点、楽天の三木谷氏になると完全に旧世代人そのものと言っていい) 



しかし、にしむら氏は、堀江氏に代表される六本木族スノビズムを全く感じさせない。実際のところは謎だが、外から見えている限りは、ライフスタイルはゲームオタクのそれであり、いい家に住もうとか、いい車に乗ろうとかいう欲望は全く見えてこない。家族の影も見えない。見事なまでに、個人主義アナーキストと言える。そして、徹底した現実主義者でもある。いわゆるIT長者に対しては、『あいつらダサイです』と評価しているそうなので、自らのスタイルに明確なアイデンティティを感じているのだろう。


その彼が、一旦ビジネスを始めると、『2ちゃんねる』『ニコニコ動画』と次々に超ビッグなサービスを立ち上げる。 


そして、裁判所からの呼び出しにも答えず、裁判で確定した損害賠償も払わない。もちろんこれを非難する向きも多いと思うが、非常なクレバーさと驚くべき度胸でたんたんとしのいでいるように見える。官憲に対してだけではなく、怒鳴り込んで来たヤクザをも軽々と手玉にとる度胸の座り方は、彼がただのいい加減なオタクではないことがよくわかる。(このあたりのいきさつは、次のエントリーに詳しいので、ご参照。オタクとは何か? What is OTAKU? | Web草思) 私も一度だけお会いして少しだけお話したことがあるが、見た目やスタイルから感じるようなオチャラケタところはあまりなく、クレバーで自信家の青年というイメージだった。


彼によって、既存の価値や秩序は破壊され、今よりもっと新しい可能性が開かれて行くだろう。彼はどこから見ても、時代が生んだ希代のトリックスターだからだ。 普通の人である私たちは、彼の行動に混乱させられ、迷惑と感じる人もいるだろうが、こうして開かれて行く新しい可能性に、何とか乗っかって行けるようになりたいものだ。