確実な将来を知るためにできること

将来予測は可能なのか?


将来予測というのは、言うまでもなく非常に難しい。そして年々難易度が上がっている。しばし予測すること自体がリスクと思えるほどだ。実際に、ある局面では、リスク回避をしたければ予測にこだわリ過ぎることはしばし禁物だ。場合によっては一種の『投機』となってリスクを拡大しかねない。


だが、それでも企業にとって正確に将来を予測できる能力は非常に重要だし、ビジネスの成功に直結することは昔も今も変わりない。では、どうすればこれほどに複雑でわかりにくくなった将来を正しく予測することができるのだろうか。


先日も取り上げた、経営学の神様、ピーター・ドラッカー氏は客観的に見れば、予測の名人だ。彼が示したビジョンは次々に現実となって立ち現れてくる。何とか彼に学んで、将来予測の達人になれないだろうか。もっとも、彼は予測とか予言という言い方は大変嫌ったため、安易なノウハウがそう残されているわけではない。むしろ、地道な歴史研究等に取り組むことを基本的には奨めている。



人口構造の変化が最も確実に未来を物語る


ただ、そんな中でも、『人口構造』の変化を知ることは、将来を知るために重要であることは繰り返し力説している。

人口、年齢、雇用、教育、所得など人口構造にかかわる変化ほど明白なものはない。見誤りようがない。予測が容易である。リードタイムまで明らかである(ピーター・ドラッカーイノベーション起業家精神*1


試しに、日本の人口ピラミッドを見てみるよう。

図録▽各歳表示の人口ピラミッド


日本の将来の問題の中で、何が一番シリアスで、確実に予測できることは何なのかが一目瞭然だ。あまりに見事な逆三角形である。サイトのコメントにあるとおり、07年あたりを境目に、この逆三角形の影響が顕在化するのは、予測ではなく現実だ。

就業者とそれ以外とのバランスが、2007年以降、大きく変化することがこの図からうかがわれる。就業者の稼ぎを原資として営まれる年金等の社会保障のこれからの深刻さも目で見て実感されよう。



さらには、15歳以下の人口、すなわち5年〜10年位先の生産人口比率の低さが一段と深刻さを増すことも、予測ではなく、現実だ。しかも、若年層の労働意欲は依然非常に低いと見られ、多少古いが、2004年に実施された、日経ビジネスのビジネス世論アンケートでも、「働かない若者」が今後増えるかどうかを聞いたところ、76.7%の回答者は「増える」と答えている

http://business.nikkeibp.co.jp/free/bizseron/2004/20041117.shtml


ニート問題も簡単には解決しないように思われる。


出生率も大きく改善する見込みはなさそうだが、仮に多少の改善が見られても、焼け石に水であることも、実際に人口ピラミッドを見ると明らかだ。

厚生労働省:人口動態統計年報 主要統計表(最新データ、年次推移)



企業に求められる対応


政治対応が重要であることはもちろんだが、一企業としてすぐにも対応すべき課題も、実に多い。

  -女性労働力の活用

  -高齢者雇用の拡大

  -外国人の起用

  -労働生産性の向上(モラルアップ/教育訓練の充実等)

  -生産性の低い労働の機械化(IT化)/海外移転

  -海外市場の開拓(日本比率の低減)


もう少しまとめて言うと、『ダイバシティー』 『海外展開』 『ホワイトカラーの生産性向上』といったあたりか。


書いていて、いやになるくらい、最近では誰もが口にする、『あたりまえ』のことばかりである。だが、問題は、これらは、対応が好ましい課題なのではない。対応できなければ市場退場が確実となる課題である。

ところが、再度ドラッカーの発言に戻ると、下記は今の日本にまさに当てはまると言わざるを得ない。


人口構造の変化が実りあるイノベーションの機会となるのは、既存の企業や社会的機関の多くが、それを無視するからである。人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものとの仮定にしがみついているからである。(ピーター・ドラッカーイノベーション起業家精神』)

インドと中国の人口構造


参考に、インドと中国の人口構造を見て見よう。ここから得られる予測も当然に日本にとって極めて需要だ。鎖国メンタリティが強いのは、最近の日本の特徴とも言えるが、ここまで各国が緊密に結びついてしまった現状では、石油も食料もない日本にとって、鎖国は破滅と同義語と言わざるを得ない。

図録▽インドの人口ピラミッド


インドは非常に若々しさのある人口構造だ。これから高い成長局面にはいってそれが当面持続するであろうことが読み取れる。(もっともごく最近では、出生率が下がってはいるようだ。)では、中国は? インドとは随分違う。一人っ子政策の影響が明確に出ている。中国も中期的には、労働力不足が予想される。ということは、労務コストのインフレを見込む必要があるということになり、世界の生産基地と言われる中国も、長い間その地位を保つことは難しいのではないか。(まあ、この程度の考察はすでに、中国のことをきちんと調べている企業なら常識だろう。だが、現実として受け止めて策を講じることができるかどうかは別だが。) インドは日本人にはあまりなじみがないが、21世紀の前半は、中国以上にインドのプレゼンスが大きくなる可能性が高そうだ。


このくらい確実な未来が見えても、なかなか今の日本の企業は動かないように思える。その点でもドラッカーの予測があたってしまうのかもしれない。