イノベーションと創造性を引出すオフィス

イノベーションをマネッジする


イノベーションはマネッジできるのか? 今日のイノベーションは組織というより優秀な個人が出すものであり、イノベーティブな個人を如何に惹き付け、彼らのやる気を出させ、イノベーティブな個人同士が活発な議論を通じてクリエイティブなスパークをおこす場を提供し、コンテキスト(文脈)をシェアリングできる環境を用意する等、できること、やるべきことは沢山ある。特に、IT系の苛烈でボラティリティの高い競争環境では、競争戦略による差別化が非常に困難ということもあり(「いかなる競争優位もそれが持続するのはナノセカンド」ビル・ゲイツ)、特にこの組織の『ケイパビリティ(能力)』戦略が非常に重視されてきている(ジェイB・バーニー 『企業戦略論』参照。*1)『人や組織からイノベーションを引出して活性化するマネジメント』は今日の最重要課題と言っても良い。



リアルの『場』の重要性


そのためには、企業理念や知識共有といった、ヴァーチャルなものも重要であることは当然だが、リアルの『場』が非常に重要であることは案外見過ごされがちだ。如何に立派な企業理念が会社のあちこちに貼られていても、何だかさっぱりわからない、ということが起こりがちだ。従業員も理解できずに冷ややかに見ているようでは、お客様や入社前の学生、協業パートナー等の周辺の関係者に対するアピールはまったく期待できないだろう。だが、リアルの『場』であるオフィス、会議室、フロント等は、明確にそのメッセージを伝えることができる。従業員にも、経営者が本当のところ何を求めているのか、経営者のデザインセンスとクリエイティビティがどれほどの物なのか等、怖いくらいにはっきりすることになる。


さすがに最近の日本企業は、『イノベーション』が重要であることを否定することはまずない。およそどんな経営者に聞いても、Yes とお答えになるだろう。だが本当にそう考えているのであれば、『イノベーションが大事』と壁に貼っておくより、オフィス環境をイノベーションとクリエイティビティが最大限引き出されるように構築してみてはいかがだろう。メッセージは明確に伝わるだろう。(もちろん、センスがなければ否定的メッセージもちゃんと伝わることになる。) 




日本企業のダブルバインド


従来の日本のオフィスは、「目で見る管理(あるいは監視)がしやすく、部署単位で仕事を進めるときのコミュニケーションも取りやすいうえ、一席当たりの占有面積が少なくて効率的」であるようにレイアウトされたところが多い。そこから、従業員(だけでなく、リクルート活動に来ている学生、お客様、協業パートナーすべてだが)に伝わるメッセージは、『管理』『効率』『低コスト』『同質化圧力』等だ。かつては、管理、効率、低コストが最重要課題で、オフィスを見てこれがちゃんと感じられるようになっていることは実質的にも意味があった。従業員は、経営者が明確にそのような意図を持っていることを知り、関係者もちゃんとその会社がきちんとマネッジされている優良な会社であることを了解する。


ところが、今はこの従来のコンセプトでレイアウトされたオフィルに、『Be Innovative』とか『創造性発揮を』とかスローガンが貼ってあると、従業員が一番感じるのは、ダブルバインドだ。このダブルバインドというのは、グレゴリー・ベイトソンによって造られた言葉で、『ある人が、メッセージとメタメッセージが矛盾するコミュニケーション状況におかれること』という意味だが、簡単に言えば、壁のスローガン(メッセージ)とオフィスレイアウト(メタメッセージ)の矛盾の中に、このオフィスにいるすべての人がおかれてしまうことを意味する。このベイトソン著作を読むと、子供がこのような環境におかれた時の悲惨な状況の例が出てくるが、従業員にとっても、すべての関係者にとっても、よいことは何もない。



伝えるべきメッセージ


では、どんなメタメッセージが必要なのか。これは厳密に言えば、各企業のコアコンセプトに触れることであり、一概に言うのは難しいが、概して下記の要素をどう訴求するかということが、最近の先進的で優良な会社では語られているようだ。

-非日常性 -遊び心 -クリエイティブなスパークのある場所 -社員のモチベーションを換気する -社員がリフレッシュできる -自由な雰囲気 -開放的・リラックスできる -グリーン・癒しがある

先進企業のオフィス


では、最も先進的な例はどうなっているのか。(Googleのオフィス、一部Yahoo!のオフィスを含む)

Google & Yahoo! の職場画像いろいろ|表現力を磨く - WEBマーケティング ブログ
Googleのオフィスはいかにして作られたのか - GIGAZINE
日本の会社ではありえないほど独創的なGoogleのオフィス写真&ムービー in スイス - GIGAZINE


さらに、最近最も先進的で、知られる、 Twitter*2Facebook*3Digg*4はどうか。

Twitter、Facebook、Diggとかってどんなオフィスなの?がよくわかる写真いろいろ | IDEA*IDEA


日本企業も負けていない。最近京都に本社を移した、はてなのオフィスもすばらしい。

はてな京都オフィス、完成 - Kossy Memo


人が、オフィスが本当の企業のメッセージを伝えていると感じていることについては、面白い事例がある。内定者にアンケートを実施した、「就職とオフィス環境の関係性実態調査」(人材サービス業の毎日コミュニケーションズとオフィスコンサルティングの翔栄クリエイトが共同で実施)では、内定者のなんと95.1%が内定を承諾する上で、オフィスの内側を見ておきたいと考えているそうだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080403-00000012-tsuka-brf


その他、NTTレゾナント三菱総合研究所が共同で行った調査でも、従業員が如何にオフィス環境を重要視しているかわかる。

働いてみたいオフィスはグーグル--オフィスデザインの調査で明らかに - CNET Japan


やるべきことと、できることは本当に沢山ある。

*1:

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

*2:Twitter - Wikipedia

*3:Facebook - Wikipedia

*4:Digg - Wikipedia