女性にオタクはいない?

オタクについての質問:女性にオタクはいない?


4月13日に『オタク』のことを書いたら、友人の女性から、下記のようなご質問をいただいた。

ところで、オタクについてですが、普通の男性オタクレベルに匹敵するオタクの女性というものはいないのではないか、いたとしても男性に比べて少数ではないのか、と考えていましたが、最近はどうなのでしょうか。また、それはともあれオタクに男性が多い(或いは女性が少ない)理由は何だと思いますか。女性は何かに打ち込むとか、極めるとか不得意で、気が散りやすいもの(よく言えば興味のジャンルが広い)なのかな、と思っています。


彼女は、私が今まで会った人の中で、最も頭の良い人の一人と言って良く、あらゆる教養に深く通じた聡明な人である。だが、『女子オタク』については、最新の状況を必ずしもご存じないように思える。実のところ、オタクの女性というのは、ことによるとオタクの男性より数も多く、世の中に与えるインパクトも非常に大きい。そして、何より、これからその影響はもっともっと大きくなって、社会を揺さぶり続けると思われるのだ。



共通の認識や常識の成立しにくさ


ここでも私が非常に感慨深いのは、男子オタクと同じく、女子オタクも消費活動/文化現象等について、多大な影響の中核となり、その結果はメガヒットという形で現れて来ているのに、それはやはり『姿の見えないヒット』と思われることだ。このことは、彼女一人がたまたま知らなかったということではなく、昨今では、どんなに流行に敏感で社会をウオッチしているつもりの人でも起きてしまう現象なのだと思う。しかも、ある年齢層以上がそうだというわけでもなく、若年層でも、理解も知識もバラバラだ。他人に関心がなく、共通の価値前提のない島宇宙化はやはり進んでいるようだ。


オタク女子について、杉浦由美子氏の『腐女子化する世界』が実例も豊富で、コンパクトにまとまっていると感じたので、いただいた質問への回答がてら、ご紹介しようと思う。




女子オタクについての誤解


まず、『女性はオタクになりにくい』という誤解についてだが、確かにそのような説は比較的広く流布しているようだ。

『腐女性化する世界』、P21より抜粋

文芸評論家の斉藤美奈子は、『男性誌探訪』(朝日新聞社)でこう書く。

『マニアと呼ばれる人種には、なぜ男性が多くて、女性が少ないのか。これは私の長年の疑問だった。(中略)父は息子に釣りを、母は娘に手芸を教えるというように、知識や技術の伝承は同性間に傾く。で、いまのところ多様な趣味が父系に偏っているのは否定できない。次に仲間の問題がある.趣味を持続していくには、同好の士が不可欠。(中略)女子には、同好の士が見つからない。よほどの意思がない限り、この段階で脱落する女性が多いのではないか。』

この『男性誌探訪』は『AERA』の連載コラムをまとめたものだ。『AERA』のような男性が読む一般メディアでは、『女性はオタクになりにくい』と信じられてきたことが分かる。


確かに、一般メディアでは、『女性はオタクになりにくい』という俗説が多く語られ、『神話』となってたのかもしれない。しかも、この女性像は昭和的な原風景イメージに近いとも言えそうだ。



男子オタクより女子オタクの方が多い!


しかし、杉浦氏は下記のような説明をあげて、女性の方がオタクになる素質が強く、オタクは男性より女性の方が多いとする。

女性の興味や趣味の対照が非常に広いこと

  -『皇室』『芸能人のスキャンダル』『グルメ』『美容』『エンターテインメント』等々。
   そもそも手芸、料理、宝塚、歌舞伎座など
   女性が没頭する趣味のジャンルは男性以上に多い。


男性以上に律儀な消費傾向があること

  -自分の好きなスターのグッズを収集したくなるコレクター気質、好きなスターの表紙の
   雑誌はきちんと購入する律儀さ、コンサート等のチケット購入にかける際限ない出費や
   手間暇、熱意など、男性の比ではない。


男性以上にコミュニケーション能力が高く同好の友人を作るのも得意であること

  -かつて行動範囲に制約の多かった女性も、インターネット時代となり、いくらでも
   同好の友人を作れる。ソーシャル・ネットワーキング・サービスmixiの興隆で、
   女子オタクの繋がりは広がる一方。


加えて、女子オタクの活字消費の多さ、コミックマーケットへの参入、同人誌サークルへの参加や自作作品の販売、果てはボーイズラブ*1小説への傾倒など、これでもかと女子オタクの実例があげられている。私たちのように、普段からマーケットの動向に耳をすましている者の実感は、大方これを裏付ける。


従来、女子オタクは団塊ジュニアまでの世代では、オタクに付着したネガティブなイメージを嫌って正体を隠す傾向があったため、実態が見えにくかったが、ポスト団塊ジュニア世代では、あまり正体を隠すこともなくなってきているという。これも私自身の実感に近い。みなさんの周囲にもこれから続々と女子オタクが正体をあらわしだすかもしれない。



認識と分析が不可欠の女子オタク


杉浦氏の著作は、取り上げられた事例の面白さ、仮説の興味深さ等、もう少しじっくりと時間をかけて考察する価値があると感じた。(賛否は別としてである) そもそもタイトルにある、腐女子についても、今回は全く言及していない。若年女性層というのは、人口比率から言えばそれほどボリュームがあるわけではないが、この流行は、上の世代に飛び火して行く傾向があるため、島宇宙化し、動物化した現代だからこそ、トレンドセッターとしての期待は大きいし、良く研究しておく必要がある。


ただ、本日のところは、女子オタクは男子オタクに劣らないほど数が多くなっていること、および、まだ大きな認識ギャップがある、という点を指摘したところで、一旦話しを終えて、続きは次の機会としたい。