オタクが支える日本文化

オタクの台頭


日本市場の変化というか変質について、大人の理解が追いつかない、という点について、携帯電話を使ってコミュニケーションの革新的領域に入って行く若年層のお話を書いたが、もうひとつ普通の大人がなかなか理解できない(したくない?)が、現代の消費文化と市場の変化を把握するためにどうしても避けて通れない集団がいる。いわゆる、『オタク』である。おそらく普通の人(大人?)が『オタク』と聞いてイメージするのは、連続幼女殺人事件の犯人、宮崎勉のような狂気の殺人犯であるとか、良くても引きこもりの不潔で汚い、というような大方はネガティブなものが多いのではないだろうか。かく言う私も、普通の人から見れば十分オタクの要素は持っているかもしれないが、秋葉原を闊歩する本物のオタクを目にすると、やはり違和感を感じてしまう。ただ、今の時代はこのオタクこそが消費文化を支え、発信を積極的に行い、さらには世界にその影響力を及ぼす、そういう存在になっている。



歴史上のオタク文化


日本の歴史の中では、江戸時代の元禄期、文化文政期、近くは大正デモクラシーなど、意外に同類と思われる文化爛熟の時代が繰り返し起きてきており、案外日本人の奥深いところにある創造性と評価してよいのではないかと思う。よく例に引かれるのは、浮世絵など、当時は包み紙の装飾程度の扱いだったのに、それがパリに渡るとゴッホなどの印象派に強い影響を与えて大変な評価を受けるというような事例である。近松門左衛門など、現在では、シェークスピアと比肩されるほどの天才であったとの評価を得ていると言って良いのだが、当時は世を堕落させる不届きものとされていたわけだ。こうして見ると、現代のオタクたちの本当のすごさを私たちがまだ知らないだけかもしれないと思えてくる。


面白いのは、このいずれの時期も、質素倹約/質実剛健を掲げる人々に圧殺されていくということだ。自由な時代に咲く文化の花も、『健全』な人たちによって、統制されて消えて行く。もし、自由にさらにのびのびとこの時期の文化人達が活躍することができたら、江戸は近代のパリに勝るとも劣らない文化の中心地になったであろうことは間違いない。このような嘆きは、渡部昇一氏が各所で書いておられて、その度に共感を覚えたものだ。パリと言えば、私はロートレックの絵が大好きなのだが、この大芸術家も見方を変えれば、酒場に入り浸るデカダンそのものだ。その彼のような人物も生きることができた場所があったからこそ、革新的な創造が次々と生まれたと言える。



今後の日本に必要な要素


今度はどうだろうか。後世の歴史家に、『秋葉原文化時代』とでも評価されうる時代を残して行くことができるだろうか。 今の時代は、質素倹約も、国家総動員態勢も、求められてはいない。創造性、イノベーション、デザイン力が何より求められている。この点、状況を知りたければ、良書が沢山出ているので、参照してみてほしい。ここでは、下記、3冊をあげておく。

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

   
クリエイティブ・クラスの世紀

クリエイティブ・クラスの世紀

   
知識デザイン企業

知識デザイン企業



もう後戻りはできない


もっとも、現代のオタクはたくましい。すでに誰から守ってもらわなくても、死に絶えてしまうことはないだろう。私がそう考える理由は少なくとも二つある。

  • 一つは、日本のネット文化は、基礎の部分から、最近の興隆に至るまでオタクが中核となって築き、支えて来ているということだ。狭義のオタクから、オタクメンタリティーを持つ者たちにまで対象を広げてみると、ネットの興隆全般を支えているのはオタクであることは明らかで、もし日本にオタクなかりせば、ネットはここまで広がらなかったと言って良いくらいだ。
  • もう一つは、すでにオタクはニッチ市場を支える少数者ではなく、市場をリードする大集団を構成してきていることだ。規模が大きいだけではない。洗練もされている。そして、若年層だけでなく、中高齢層の隠れたオタクメンタリティーを引き出し(釣りマニア、自転車マニア等々)、消費を活性化している。すでにマイノリティーとは言えない。


『ジャパンクール』は、日本人が日本にいて思う以上に、海外で高い評価を受けている。例えば、日本のアニメが世界中で評判がよいが、言うまでもなく、日本のアニメはオタクによって支えられ今日まで生き延びて来たと言っていい。


このように、現代の日本の文化、市場について知りたければオタクのことを知らないとわからない、というのは絵空事でも何でもない。あまり例を引くこともなく、抽象的なコメントに終止してしまったが、今後私のブログでも、事例を取り上げながら、オタク解読から、日本の市場と文化を読み解き、マーケティングの進化にも寄与できような見解を披露してみたい。