新聞業界の凋落から見えるもの

アメリカの新聞業界の凋落に歯止めがかからないことに関して、いくつかのエントリーが出ているが、その中で、最もストレートなコメントが印象的なのは、渡辺千賀さんのブログ記事だ。アメリカの新聞の凋落 | On Off and Beyond 


その内容は明快でわかりやすいが、それ以上に、日経産業とのやりとりがとても興味深い。

-渡辺千賀さんのブログ記事からの引用


2007年の新聞広告費は全米で9.4%減。1950年に新聞広告費統計を取り始めて以来、最大の減少だそうです。

・・・というニュースを読む前に書いたアメリカの新聞の凋落に関するコラム。日経産業向けだったんですが、「あまりにも救いがない内容なので、もうちょっと緩和した書き方にして欲しい」と言われたので、では・・ということでボツにしていただきました。・・・・

「アメリカの新聞業界は、大変だけどみんながんばってるよ」

みたいな感じだったらOKだったみたいなんですが、がんばるくらいではどうにもならない状況かと。今後淘汰が進み、全米で3紙くらいしか残らないんじゃないでしょうか。

日経産業から、『もうちょっと緩和した書き方にして欲しい』、との依頼があったとのこと。それはそうだろう。今後の深刻さという意味では、日本の新聞業界のほうがはるかに深刻だ。宅配制度に頼る日本の新聞の場合は、インターネットへのビジネスモデル転換がアメリカより難しいというのは、ずっと言われて来たことだ。


http://job.mynavi.jp/conts/2009/tok/mass/know/shi_syu/index.html
http://japan.cnet.com/blog/wackey/2008/02/20/entry_25005381/



新聞協会経営業務部の調査データによると、世帯数あたりの部数は長期低落に歯止めがかからない。

http://www.pressnet.or.jp/data/01cirsetai.html



よって、インターネット広告をベースとするビジネスモデル転換の必要性が説かれることになるわけだが、英語圏と違って、そこそこの規模はあっても、限界も明確な日本語圏にある新聞社の経営を広告だけが支える見通しは立ちにくい。ただでさえ、非常に閉塞感があるのに加えて、アグレッシブに経営転換を図り、紙面を全面的に改定して、インターネットベースのビジネスモデル構築に一早く取り組んだ、ニューヨークタイムズは業界の希望の星以外の何者でもなかったはずだ。そのニューヨークタイムズでさえ、必ずしも成功しているとは言えないというのは、米国の新聞業界もさることながら、日本の新聞業界にとっては、場合によってはパニックを起こしかねない事態だろう。


 -渡辺千賀さんのブログ記事からの引用

それだけの試みをしているニューヨークタイムズですら広告収入はジリ貧だ。読者数は、紙媒体の110万人と比べオンラインは750万人に達するにもかかわらず、収入の9割は未だ紙媒体からのもの。そして、オンラインの収入が増えるより速いペースで紙媒体の収入が減少している。今年1月時点では、トータルの広告収入は前年比10%減だった。


若干蛇足だが、世界新聞協会がGoogleに抗議文を提出した、という記事があるが、メディア・パブ: 世界新聞協会 vs グーグル,検索制御の主導権争いが再熱
新聞業界のなりふり構わない姿勢が伺える。



新聞社が紙をそのままインターネットに記事を持ってくるようなサイトを立ち上げ、バナー広告を貼ったところで、マス広告の手法の範疇でしかなく、ワン・ツー・ワンからさらにソーシャルネットワークを構築して、ユーザーコミュニケーションの高度化をはかるべく熾烈な競争を繰り替えす、インターネット先進企業と互角に争うことは難しいだろう。広告・マーケッティング活動そのものに、パラダイムシフトが起ころうとしていて、企業は大変な転換点に直面している。当然新聞社の問題だけではなく、すべての顧客対応が必要な企業が直面する大問題である。