Google vs YouTube

マイクロソフトの中島聡氏の『おもてなしの経営学』が非常に話題になっている。

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

中島氏の本に提示されている疑問、それはIT業界関係者であれば、多かれ少なかれ関心があると思われるトピックが取り上げられているわけだが、その問題設定と分析の的確さには驚かされる。


中でも、私が不意打ちを受けたように感じたのは、なぜ『Googleビデオ』を持つGoogleYouTubeを買収したのかという問いだ。優秀なエンジニアの数なら、当然Googleが圧倒的に上回っているわけだし、高いビジョンと理想のを持つ経営陣もいる。資金力の差は言うまでもない。それでも、サービス単体ではYouTubeが勝っていたわけだ。最終的にはYouTubeを買収したGoogleは、戦略全体とした負けたわけではないのだが(むしろ英断と言えると思うが)、少なくともGoogleが自認する競争力の有り様とは違うと思う。仮にすべての領域でこのようなことが起こるのであれば、Googleには優秀なエンジニアは残らないだろう。(実際に、FacebookGoogleの人材が流出し始めているということが、昨年来盛んに報道されているが、本件はここでは深入りしない。http://zen.seesaa.net/article/88341498.html


中島氏によれば、お客様のことを最大限に考えるおもてなしの差、具体的にはYouTubeが『共有のしやすさ』の充実に力を入れていたことが勝敗を分けたとされている。

『おもてなしの経営学』P26より
グーグルがフォーマット変換など機能面での充実に力を入れていたのに対し、YouTubeが力を入れたのは『共有のしやすさ』だ。『自分が面白いと思ったYouTubeビデオをブログに貼付けて他人と共有する』という作業を、徹底的に簡略化し全面に打ち出すことで、ブログを通じたクチコミによるマーケティングバイラルマーケティング)を最大限に利用することが可能になり、短期間にグーグル、ヤフー(ヤフー・ビデオ)という二大巨頭が提供するビデオ共有サービスを一気に抜き去ってしまった。


最近、日本企業が製造業体質から脱却できないこと、それによって国際的競争力が落ちているという指摘がなされるが、国際的なスケールでも、お客様の側に立つ創造力と商品(サービス)構成のデザイン力を失うと、あっという間の逆転が実際に起こりうるという端的な例だろう。日本企業の実際を見ていると、生産効率を高め、市場の不確実牲を最小限にすべく行動するという経営手法が、それ自体ネックになっているケースが最近非常に多い。この手法の下では、商品の全体性を考える商品企画を行うことは難しく、スペックをコストと販価をもって評価し、パズルのように組んだりほぐしたりして、全体の脈絡とは関係なく、製品が構成されていく。あるスペックが追加されればユーザーはその販価を型どおり支払うことが前提となっているわけだが、市場で多くの商品のスペックへの要求が飽和してきている現在、このようにして作られた製品やサービスはいかにも奇っ怪なものになる。マネジメントや銀行、株主等には説明がしやすいし、『見えやすい』。しかし、それ自体がおおきな罠であることは、意外なほどに理解されていない。


一方で、起業家精神が旺盛なベンチャー企業にとって、これほど面白い時代はない。勝利条件が圧倒的な資本力でも、人材の層の厚さでもないのだから。市場とユーザーのトレンドをきちんと把握して、スピーディーに動くことができるかどうか。企業の資本や人材の蓄積がむしろ障害となる可能性さえある。


このような実例を研究すればするほど、本当にわくわくする時代がやってたものだと感じる。