さらに奥深く踏み込むべきスマート社会づくりの議論

去る4月16日(火)に、第2回 FTMフォーラム シンポジウム 「スマート社会のビジョンとテクノロジーを提言する〜スマートエネルギー、新ビジネス、企業のイノベーションを徹底討論〜」に参加してきたので、かなり遅くなってしまったが、若干の感想を書いておきたい。


開催概要


・開催主旨


 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)は、4月16日FTM(フューチャー・テクノロジー・マネジメント)フォーラムの2012年度活動の成果報告と提言発表を兼ねたシンポジウムを開催いたします。

技術と経営の有識者が登壇する第1セッションでは、スマート社会のインフラとなるエネルギーとくに電力システムの改革について提言を発表して、それに関する議論を深めます。スマートエネルギーを中心とする技術や産業構造、さらには技術者のあり方についても変革の方向性を示します。(レッドテーブルメンバー:筆者付記)

それを受けて、若手の論者を中心とする第2セッションは、エネルギーおよびICTの分野における新ビジネスの可能性について討論します。(グリーンテーブルメンバー:筆者付記)

また、第3セッションは、スマート社会で活躍する企業になるため、組織内でいかにイノベーションを促すかという視点からディスカッションを深めます。とくに、イノベーション促進のための新しいアプローチ、イノベーションのためのコラボレーション(企業間連携)について議論を深めます。(イノベーション・ワークッショップメンバー:筆者付記)

3セッションあわせて是非ご参加ください。
ご参加をお待ちしております。


・日時

  2013年4月16日(火)13時30分 〜18時

・会場

  国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
  (東京都港区六本木6-15-21ハークス六本木ビル2F)


・プログラム(予定)


13:30 - 13:40 ご挨拶 庄野次郎(国際大学GLOCOM所長)

13:40 - 14:55 第1セッション「持続可能なスマート社会づくりを急げ―新しいエネルギー・エコシステムをめざして―」(レッドテーブルメンバー:筆者付記)
           提言を発表して、その内容について討論を行います。

      - 村上 憲郎(国際大学GLOCOM主幹研究員/教授,FTMフォーラム議長)
      - 宇治則孝 (国際大学GLOCOMエグゼクティブ・アドバイザー/日本電信電話株式会社顧問)
      - 河口真理子(株式会社大和総研調査本部主席研究員)
      - 高橋秀明 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授)
      - 田中芳夫 (東京理科大学大学院教授/国際大学GLOCOM上席客員研究員)
      - 中島 洋 (国際大学GLOCOM教授)
      - 永島 晃 (東京農工大学客員教授/国際大学GLOCOM上席客員研究員)
      - 前川 徹 (サイバー大学教授/国際大学GLOCOM主幹研究員)
      - 村上敬亮 (経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課課長)
             (当日は欠席:筆者付記)

14:55 - 15:10 休憩

15:10 - 16:25 第2セッション「スマート社会の新ビジネス」
     (1)エネルギー分野の新ビジネス
     (2)シェアエコノミーをつくるベンチャービジネス
          (グリーンテーブルメンバー:筆者付記)
   
      - 川崎 裕一(株式会社kamado 代表取締役社長)
      - 庄司 昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員/講師)
      - 西田 亮介(立命館大学大学院 先端総合学術研究科 特別招聘准教授/
             国際大学GLOCOM客員研究員)
      - 森永真弓 (株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所 上席研究員)
      - フランク・リング(茨城大学地球変動適応科学研究機関研究員)

16:25 - 16:40 休憩

16:40 - 17:55 第3セッション「スマート社会に向けた企業のイノベーション
                  〜イノベーションを促進させる方法とマネジメント〜」
           (イノベーション・ワークッショップメンバー:筆者付記)
     
      - 伊原木正裕(横河電機株式会社イノベーション本部 知的財産・戦略センター戦略企画室長
                     国際大学GLOCOM客員研究員)
      - 越智純一 (ボッシュ株式会社自動車システム統合部部長代理)
      - 角谷恭一 (株式会社NTTデータ技術開発本部サービスイノベーションセンタ課長)
      - 金子明正 (日本電信電話株式会社研究企画部門担当部長)
      - 久保隅綾 (大阪ガス株式会社大阪ガス行動観察研究所主任研究員)
      - 砂田 薫  (国際大学GLOCOM主幹研究員)
            - 三谷慶一郎(株式会社NTTデータ経営研究所パートナー
              コンサルティング事業部門長)

18:00 閉会


・追加


今回は昨年の第一回目に引き続き、第二回目の開催ということになる。このフォーラムの活動は非常に幅広く、全体像を説明しているとそれだけで長くなりすぎてしまいそうなので、活動概要およびその詳細については、次のURLをたどってご参照いただきたい。

FTMフォーラム : 国際大学GLOCOM


また、活動一覧については、次の図がわかりやすい。


当日の模様は、次のTogetterに大変詳しくまとめてある。当日の雰囲気を感じることができると思う。
FTMフォーラム : 国際大学GLOCOM



レッドテーブル


レッドテーブルは企業のCTO経験者等、有識者/シニアで構成され(議長はGoogle日本法人元社長の村上憲郎氏)、エネルギー問題を中心にスマート社会を支えるテクノロジーについて議論し、昨年は、『再生可能エネルギーの成長を促し、より自由でオープンな電力市場をつくるべき』との提言を行っている。本年は、それを実現するために以下の4つの視点で提言がなされた。

・エネルギー・エコシステムをめぐる発想の転換


・法制度的な環境の整備


・エコシステムを実現する技術への研究開発資金・事業資金の投入


・技術革新や事業化を支えられる人材の育成


(詳細はまだweb公開されていないようだが、追って公開されるだろう。)


討議では、各メンバーが自由に(我先に)自分の意見を述べる。誰もが一家言ある『強者』ぞろいなので、発言の質量とも圧倒的だった。提言としてまとめることはさぞ大変であったろうことがしのばれる。昨年の提言は比較的技術よりとの印象があるが、本年は、それを実現するにあたっての社会/制度上の問題に焦点を移した形だ。ただ、要点は整理されたとはいえ、非常に錯綜した問題が山積みであることをあらためて印象づけた、というべきだろう。例えば、制度や市場環境整備といっても、実際には複雑怪奇な法律や規制、既得権益者のエゴ等の障害だらけで、何をどこから手をつければよいやら、気が遠くなってしまいそうだ。



社会の基本原理そのものの揺らぎ


3・11以降、誰もが意識するようになったキーワードを一つあげるとすると、『不信』だろう。戦後の社会や制度を支え、拠り所となってきた価値の対象が、軒並み不信の対象となってしまった。震災以前からすでにその兆候は濃厚にあったことは確かだが、震災をきっかけに、誰もがはっきりとそれに気づき、さらにはソーシャルメディアを通じて増幅されることになった。


科学技術に対する不信
政治/政治家に対する不信
官僚に対する不信
法律/法曹界に対する不信
警察/検察に対する不信
マスコミに対する不信
科学技術/科学者に対する不信
経済/経済成長への不信
資本主義への不信
民主主義への不信
・・・


これはもはや個別の制度の老朽化や専門知の不足、というようなレベルの問題ではなく、社会の基本原理そのものが揺らいでしまっているということではないのか。この認識を欠いたまま、小手先の議論をいくら続けていても、解決の糸口は見えてこないだろう。



総合知の重要性


福島第一原発の事故を受けて、ドイツはそれまであった専門家の集まりである、『原子炉安全委員会』に加えて、技術の専門外のメンバーで構成された『倫理委員会』を立ち上げ、その答申を重視して、ドイツの国内の原発のすべてを2022年までに廃止することを決定して話題になった。科学技術に限らず社会全体に影響が広範囲に及ぶ問題は、『専門知』以上に『総合知』が必要であるという判断だが、昨今ますますその必要性は高まって来ていると思う。


今回のFTMフォーラムの提言でも、「技術分野相互の連携を目的とした『総合エネルギー工学』の必要性が高まっており、技術が社会に及ぼす影響・あるいは技術の倫理性について考えをめぐらし、評価することが求められており、そのためには人文学・社会科学を含んだ様々な分野との連携や交流をすすめるべき」とある。


もちろん賛成だが、本当に実のある提言とするには、さらにもう一歩、人文・社会科学自体が抱え込んでしまった、根本的な問題(資本主義、民主主義等の問題)に踏み込まざるをえないと考える。それこそ気が遠くなりそうな話ではあるが、これほどのメンバーを集めることができるFTMだからこそ期待したいところだ



グリーンテーブル


昨年度のグリーンテーブルは、30代を中心とする若手のビジネスリーダーやオピニオンリーダーを議論のメンバーに迎え、主として『シェア』をキーワードとして、近未来のスマート社会の構想に取り組んできた。


近代、特に工業生産に立脚する経済社会では、伝統社会の共同体を解体して(日本では企業共同体に再集約されることになったが)、生産、所有・消費を分離し、『個の所有欲・消費意欲』を抑制せず、むしろ経済成長のエンジンとして奨励する社会を作り上げた。だが、環境破壊、地域共同体崩壊、国民経済としばし利益相反してしまうグローバル化等の限界や矛盾が続出し、このままでは持続可能とはいい難いことが誰の目にも明らかになってきた。



シェアをめぐる認識ギャップ


ただ、『シェア』は比較的手垢のついた概念ともいえ、『伝統的な共同体復活』、『共産制への移行』、『所有欲の道徳的な観点での抑止』等、プレ近代への回帰や、単なる文化的な価値観の転換という文脈で語られ、そのレベルでの賛否に関わる議論を誘発する傾向があるように思える。興味深いことに、特に、レッドテーブルメンバーのようなシニアには、時に『シェア』はマルクス主義農本主義等の亡霊を呼び覚ますキーワードになるようだ。


だが、グリーンテーブルの議論メンバーのような30才代以下の若年層には、これは、『垂直統合から水平分業への移行』、『企業組織を越えたオープンイノベーションの活用』、『ソーシャルメディア利用による個と個のつながり』等と同様、インターネットテクノロジーが起こしつつある社会変革の一端と見えているのだと思う。


確かに昨今の若年層は全般に堅実で、身分不相応な高級車を乗りまわすような自己顕示的かつ資源浪費的な消費には概して否定的だが、今回のグリーンテーブルの議論メンバーの話を聞いていても、経済の崩壊や、前近代にまで至る後退は、社会の持続可能性を阻害する、という明確な問題意識を持っており、(『従来型の経済成長』には疑問を持っていても)そういう意味での『経済社会の進化』には肯定的だ。



メジャー・バージョンアップ


問題は、まだその問題意識を思想のレベルで語れる言葉を持っていないということだろう。どうしてもシニアの突っ込みに有効な反論ができない苛立を感じてしまうのは、それが一番の原因ではないか。その点、元国際大学GLOCOMの主任研究員でもある、鈴木健氏が出版した大作、『なめらかな社会とその敵*1で示されたコンセプトはおおいに参考になると私には思える。

現在のインターネットは、既存の資本主義や国家の仕組みのなかで働く、ひとつのレイヤーでしかなくなっている。そうではなく、コンピュータやインターネット自体が社会制度の新しいアーキテクチャを作っていくような、情報技術の可能性をきちんと考えなければいけない。
私の考えでは、コンピュータやインターネットの進化は単に利便性の向上ではなく、経済や政治、軍事など、社会のコアシステムの本質的な変容=メジャーバージョンアップを迫ることができる。『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)では、実際に貨幣、投票、法、軍事の分野で、「なめらかな社会」を実現するためのコアシステムを提案しています。

http://nx-times.com/news/2013/04/19/2571/


これほどの『大構想』が若手から出てくることに、非常な驚きとまぶしさを感じるが、まさにこの『メジャー・バージョンアップ』に関わる議論こそ、本年度のグリーンテーブルに期待したいところだ。



イノベーション・ワークショップ


イノベーション・ワークッショップメンバーによる、第3セッションだが、私はこのメンバーの発表を聞くのは初めてだったが、企業内の取り組みとして、左脳型の『ロジカル思考』に対して、右脳型とされる『デザイン思考』*2をより重視し、そのコンセプトに基づいて行われた各社での具体的な取り組み事例を紹介するプレゼンテーションは、事前の予想以上に面白かった。


ただ、私の知る、成功していた日本企業は、暗黙知を重視する右脳型の取り組みを旧来より重視するところが少なくなかったはずなので(ホンダの『わいがや』、トヨタの『現地現物主義』等)、どうして今またこれが強調されなければいけなくなってしまったのか、メンバーのお話を聞きながら、少々複雑なものを感じていた。



企業という境界の問題


それと、『企業内』を前提する取り組みとしては、興味深いものがあるとしても、その『境界』がじきに制約や障害になって行くのではないか。多少気にかかるところではある。先に言及した鈴木健氏に戻ると、次のような発言もある。

近代という時代は、いくつかの特定の「境界」をはっきりさせてきました。国家の境界、会社の境界、個人の境界、人格の境界――これらの境界は、複雑な世界をありのままに捉えることを許さず、単純化してしまう。例えば、複合的な要因から生じている問題に対して、責任の帰属先を一点に求め、”わかった振り”をさせてしまいます。
その対立概念として私が提唱しているのが、複雑な世界を複雑なまま生きることを可能にする、新しい秩序「なめらかな社会」です。これは近代の思想である個人主義にも全体主義にも陥らないように、慎重に考えた思想です。そして個人主義全体主義を否定するのではなく、両者を含むものなのです。

http://nx-times.com/news/2013/04/19/2571/


皆がいわゆる、ソーシャル強者となって、企業を飛び出すことようなことは現実的ではないから、今できることをやる、というのはやむないことだは思うが、今は企業の『境界』こそが諸悪の根源となりつつあると私には思えるのだがどうだろうか。



結語


FTMの活動に関しては、何度も参加させていただき、その都度、実際の内容のレポートもせずに、自分自身が感じたり思ったことを書きなぐって来た。どうやら、今回もそうなってしまったようだが、思いの丈を受け止めてくれるだけの懐が深い組織(国際大学GLOCOM)と信頼していればこそなので、ご容赦いただきたい。本年度の活動も楽しみにしている。



<ご参考>

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