歴史的役割が終わる時に『戦術』を語る事について

ドラマ『リアル・クローズ


フジテレビ系のテレビドラマで、10月13日から始まったリアル・クローズという番組を何となく観ている。落ち目の百貨店に救世主としてやってきた婦人服売り場の統括部長(黒木瞳さん)のもとに、ファッションに興味を持たないまま婦人服売り場に異動になった絹恵(香里奈さん)が仕事や恋に悩みながら成長していく、というようなストーリーだ。明石家さんまさんと大竹しのぶさんの娘のIMALUさんや、香里奈さんの実の姉の能世あんなさんとえれなさんが出演するなど、話題も豊富で、内容的にも歯切れよいテンポで百貨店の現場の雰囲気もよく伝わって来て、結構面白い。
http://real-clothes.ktv.jp/index.html


だが、それ以上に私の興味を引くのは、 『タイミング』だ。今このタイプのドラマが果たしてどの程度視聴者に受け入れられるのか。受け入れられるとするとどんな感じなのか。なかなか微妙なタイミングにオン・エアーされたものだと思う。



百貨店の低迷 


キーワードとなる、『百貨店』『ブランド』『ファッション』は、どれも大変な曲がり角にある。『百貨店』は近年、『歴史的な役割を終えた』というのが大方の評価で、戦線縮小の危機のまっただ中だ。その中でも、高級衣料は低価格品のラッシュと消費者のブランド離れに抗しきれず、こちらも大変な苦境にある。今百貨店業界にいて『リアル・クローズ』と同じ環境で働く人達は、ドラマを観て元気が出るのだろうか。


上司役の黒木瞳さんから出てくる台詞は、ビジネスの渦中のある者にとって普遍的で、胸に迫るものがある。その限りでは、元気をもらい、教訓をかみしめる人がいることは否定しない。だが、今の百貨店業界は、もはや『戦術』の巧緻だけではどうにもならないところに来ていると思う。どんな名経営者だろうと、名マーケターだろうと、撤退戦/後退戦を強いられる。犠牲を少なくして、徐々に、しかし遅れずに後退して行く能力が最も必要とされる。そのような難しい仕事を成し遂げることのできる経営者は、名経営者には違いないだろうが、少なくとも、ドラマで黒木瞳さんが演じるようなタイプとはどう見ても違う。せめる戦術に如何にいいカードを持っていても、そのカードを切れるタイミングがあまりに少ないのが実情だと思われる。語れる戦術は『撤退/後退戦術』しかなくなっているのではないか。


日本百貨店協会の資料によれば、2008年の全国百貨店売上高(既存店ベース)は前年比4.3%減の7兆3,813億円で、12年連続で前年実績を割り込んでいる。(その結果、この年、たばこ自販機用成人識別ICカードtaspo(タスポ)」の導入により来店客が増加した追い風もあって、コンビニエンスストアの売上げに抜かれることになる。)商品別にみても、衣料品は前年比6.2%減と振るわず、特に全売上高の23.9%を占める婦人服は6.7%減と低迷しているのだ。 2008年秋のリーマンショックから一年を経て、業種によっては一服感のある現在でも、百貨店の売上げはさらに大きく落ち込んでいる。以下、直近の10月の速報に関する読売新聞の記事(11月2日)からの抜粋だ。

大手百貨店5社が2日発表した10月の売上高(速報)は、三越伊勢丹高島屋松坂屋の4社で前年同月比の減少率が10%を超えた。4社が10%超えとなるのは、全5社の減少率が10%を超えた7月以来となる。雇用不安を背景とした消費不振に、10月に日本列島を縦断した台風が追い打ちをかけた格好だ。落ち込みが最も大きかったのは松坂屋の13・1%減で、三越は12・5%減、高島屋は11・9%減、伊勢丹は11・2%減だった。宝飾品などの高額品が引き続き不振で、ウールのコートなど冬物衣料の出足も鈍いという。

 

『百貨店』という前提をそのままに戦術を語ることは難しい。構造を根本的に変える『戦略』を語らないことにはどうにもしようがないと感じるのは、私だけではないだろう。日本経済はいつ不況を脱する事ができるか、まったく予断をゆるさないが、かりにこのトンネルを抜けても、ユーザーの側の指向や消費構造のほうも根本的に変化していると思われ、従来の『戦術』が通用するとは考えにくい。



歴史的な役割の終了


しかし、このような悲惨な状況は、何も百貨店業界だけではない。歴史的な役割を終えた(終えつつある)と言われるものが、今の日本には何と多いことか。

自民党

経団連

農協

春闘

日米安保

政府系金融機関

官僚支配/天下り

年功序列

既存の大手マスコミ(TV、新聞等)

ガソリン自動車

・・・・

どれにも共通しているのは、従来の枠組みを残したまま改善しても、いかんともし難いだけではなく、多くは有害であることだ。いずれも『撤退戦』を余儀なくされており、『改善』ではなく『改革』が必要だ。早晩『創造的破壊』に行き着くのは歴史の必然なのではないか。


ドラマ『リアルクローズ』はそれを観た人からどのように評価されるのか、評価されないのか、いずれにしてもドラマ自体もさることながら、その視聴者の反応から目が離せない。