第三回マネタイズHacksに参加して少し見えて来た黄金のフォーミュラ

第三回マネタイズHacksに参加した。開催概要は下記の通り。


日時:   2009/6/24(水) 18:30-20:30
会場:   六本木アカデミーヒルズ
主催:   株式会社ライブドア株式会社はてな
交流会: LASALA六本木ヒルズ側・麻布店 ぐるなび - レストラン予約と宴会・グルメ情報 検索サイト
登壇者/講演概要:

・「ネットサービスの収益化戦略の俯瞰図:類型と展望」
 ヤフー株式会社 Yahoo! JAPAN研究所 柿原 正郎氏
 
・「イラストコミュニケーションサービス pixiv」
 ピクシブ 株式会社 片桐 孝憲氏
 
・「月額課金の問題点とアイテム課金の導入ポイント」
 ウノウ株式会社 代表取締役社長 山田 進太郎氏


・「面白法人錬金術
 面白法人カヤック 玉田 雄以氏


・「ユーザー課金の裏側と決済手段の比率」
 株式会社ライブドア ブログビジネスユニット 坪田 朋氏
 
・「mixiならではの、コミュニケーション課金」
 株式会社ミクシィ mixi事業本部 企画部長 岨中 健太氏


・「はてなスターはてなプラスにおける課金」
 株式会社はてな 川崎 裕一 氏
 


ものすごい活気


参加申込者の多さ(300人超の申込 内抽選で120人が参加)、登壇者と講演内容のバラエティと内容の濃さ、交流会(二次会)の参加人数の多さと活気(100人!?)、どれを取っても、大不況の真っ只中とはとても思えない活況だった。タイトル設定が、マネタイズというわけだが、日本でも突然サービスを停止してしまうような事例がインターネットサービスでも非常に増えて来ており、『マネタイズか死か』という切羽詰まった状況が背景にあることは間違いないが、少なくとも他業種の一部に見られるような、万策尽きた寂寥感はまったくない。 


確かに、既存4大メディアへの広告宣伝費出庫が激減する中、当初は比較的堅調と言われたインターネット系メディア向けの広告費も、すでにそうとばかりも言えなくなって来ている。不況の影が迫っているのは間違いない。ただ、この時期に上場する企業もあるし(Greeクックパッド)、不況下でむしろ業績を伸ばしている企業もあり(楽天等)、不況にあらがう活力が十分残っている業界ではある。仮にマネタイズが順調ではないとしても、少なくとも、すべきこと、やってみたいことは無くなってはいないということだろう。



課金モデルが中心テーマ


『インターネットは儲からない』『インターネット上のコンテンツは原則無料』と総称されてしまうような状況は好不況に関わりなくずっとあったわけだし、検索連動広告のような明らかな成功例を除けば、残念ながらまだ共通に認識された成功フォーミュラがあるとは言い難い。特にいわゆる課金モデルは、一部に成立している事例はあるが、今のところ例外扱いされているのが実態だろう。今回のセミナーは基本的にはマネタイズ全般が守備範囲だが、中でも課金モデルのマジックにせまりたい、という主催者側の意図が強調されていた。


登壇者はいずれも、マネタイズに何がしかの成功体験を持つ人達なので、間違いなく何らかのヒントはあるはずだ。しかも皆、自分の経験を語るだけではなく、マネタイズが成功した理由を出来るだけロジカルに語ろうとしていたので、他のセミナーには見られない真剣さと期待感が会場を包んでいた。



黄金のフォーミュラは見つかった?


では、参加者は、『黄金のフォーミュラ』を見つけることはできたのだろうか。秘密? まあ、それも良かろうが、はてなの副社長、川崎氏が言われるように、ノウハウは公開して真似し合って共存共栄すべき、という意見に私も原則賛成だ。ただでさえ、昨今日本のインターネットは発展に疑問符がつきかかっているフェーズだ。それにフォーミュラを見つけただけで、ビジネスが成功するような甘い世界でもない。本当の競争はその先にあるし、その先でやればいい。


インターネットサービスのマネタイズについては、自分でも多少ワークしてきたテーマでもあるが、こうやって事例研究を沢山聞かせていただくと、頭の整理が進む気がする。以下、感じたままに感想を書いておこうと思う。



水とダイヤモンド


インターネットサービスの課金モデルの問題を考えるにあたっては、いつも経済学の基本的な考え方の一つ、『価値のパラドクス』を思い出す。これは水とダイヤモンドを例に引いて説明される、少々小難しい議論なのだが、簡単に言えば、通常豊富にある水は安価だが、砂漠の真ん中にいて代替財もなければ(希少財になれば)ダイヤモンド以上の価値がつく、という話である。水を情報やコンテンツに例えると、本来希少財であったはずの情報やコンテンツも、インターネットによってあっというまに希少財とは言えなくなった。当初は情報は何らかのコンテナーごとに囲い込まれ、お金を払わないとコンテナーの封印は解けなかったわけだが、今は広告モデルが主流となったこともあいまって、インターネット空間には、質の高い無料の情報やコンテンツがあふれ、価値は極限まで下がって(無料になって)しまった。



「今」「ここ」の限定性の演出


だが、何らかの方法で、壁や敷居がないはずのインターネットサービス内で、言わば『砂漠』が作られ、サービスが希少財化してユーザーがお金を払う気にさせられている。(この場合、iモードに代表される携帯電話の情報/コンテンツ提供サービスのことは敢えて語らない。プラットフォームごとそっくり囲い込むこのモデルは本来非常に優れたものだが、オープン化の潮流はすでに不可逆と言うべきで、ゆっくりと(あるは突然に?)フェード・アウトに向かう可能性が高い。)そのためには、『「今」「ここ」の限定性の演出』が鍵だ



コミュニティー:マネタイズのチャネルの多様化


インターネットサービスはトラフィックの多さが重要で、そのためには初期は赤字でも、とにかくユーザーをかき集めればその先に収益化のチャンスが訪れるという神話があった(ある)。だが、それはある程度の必要条件ではあっても、十分条件ではないことはすでに明らかになりつつある。世界的に驚異的なトラフィックのあるYoutubeがなかなか黒字化できないで来たことがその状況を象徴している。リッチメディア化して如何にコンテンツの絶対価値を上げても、相対価値は下がり続け、一旦熱狂したユーザーもあっけなく飽きてしまう。『提供→享受』の偏方向だと提供側が消耗して燃え尽きてしまう。それを回避する策として今のところ最も有効とされるのは、月並みだが『コミュニティー化』の要素を取り入れることだ。コミュニティーとしてうまく設計されたサービス内では、ユーザーの行動動機は、単純な『提供→享受』を越えて、多様化していく。これはサービス提供者にとってはマネタイズのチャネルが増えることを意味する。


自分がコミュニティーメンバーに見られていることを意識するユーザーは、他人が自分を見る目を意識して、いわば他人の意図や期待を充足するように行動すべく動機づけられる。(クールなやつと思われたい、センスのいい人に見られたい、そんなような気持ちのことだ。) さらには、コミュニティーメンバーに対して賛意、同情、哀悼、尊敬の念等を伝えたくなる。(冠婚葬祭や季節の挨拶、感動の意図の伝達、贈答等) ついには、心からメンバーに対して何らかの貢献をしたいと感じるようになる。(奉仕、献身等)



お金を払ってでも手に入れたい『記号』


そう考えれば、GREEモバゲータウンのようなサービス内では、課金の仕組みが上記のような法則を活用していることがわかる。コミュニティーの外側にいる人にとって、電脳のアバターが着せ替えをすることにお金を払う人の気持ちなど、まったくわからないだろう。だが、そのコミュニティーでクールな人と評価されるためには、アバターの着せ替えをクールに実行できること、と皆が考えるようになっているとすれば、非常にクレバーな形で、『「今」「ここ」の限定性』が演出されていることになる。それは、他のものに変えることができない、とユーザーが感じているからこそ、皆お金を支払ってでもその記号を手に入れようとする。


文化圏の相違よる差はあるが、リアルのコミュニティー内での『冠婚葬祭』『贈答』が普遍的であるように、インターネットコミュニティーでもやはりそれは(形を変えながらでも)生起してくる。そして、リアルな贈答でも、贈答品の使用価値自体にはさほどの意味がなく、送り手の感情や意図を伝える『記号的な意味』のほうが重要だ。ある文化圏には、その感情や意図を伝えるのに相応しい贈答品が存在し、それはコミュニティーが違えばまったく違うことも珍しくない。インターネットコミュニティー内にも、そこにしかない独自な贈答品=記号が存在してもおかしくはない。



今回の事例で見ると


今回のセミナーで言えば、はてなの『はてなスター』やmixiの『mixi年賀状』が典型的にこのケースに該当するはてなスター任天堂DSにまで範囲を広げることで、親子の関係にまでこれを持ち込み、スターを送ることの意味、有料のカラースターでなければ伝えることができない気持ち、というのを演出しつつあるようだ。またmixiは、ユーザーがすでに多額の金額をかけることに抵抗のない『年賀状』をシステム内に取り込むという工夫がすばらしい。しかも、住所を知らない人にも年賀状が送れる、というmixiならではの『代替財のなさ』も訴求できている。私はpixivやウノウのサービス、ライブドアのブログサービスのことはあまり存じ上げないのだが、ざっと拝見したところ、やはり、そういう要素を生かす意図と工夫が随所に見られる。



今後有望なのは


では、今後どのような領域が有望なのだろうか。Yahoo!の柿原氏のお話しにあった、ユーザーの行為ストリームの中での、ネットとリアルの接点(ゲート)にヒントがある、と言う点は私も以前から注目していて、私のブログを読んでいただいている方はご存知のとおり、位置情報であったり、 augmented realityの技術等を例にあげて何度か示唆してきた。 但し、ここでも『コミュニティー設計+「今」「ここ」の限定性の演出』が鍵であることは言うまでもない。この機会に、私自身、もう一度、新しいサービスの可能性を考えてみたいと思う。



まったく異質だがすごく面白いカヤック


今回の登壇社の中で、特異だったのは、面白法人カヤックである。実は私も、アンケートでは一番をつけたし、アンケートの集計結果でも、一番だったようだ。


この会社のビジネスモデルの核は、主として広告や企業とのコラボにあるようなので、今回のセミナーの中心的な話題(課金モデル)とはやや焦点が異なるように思われるが、別の意味で非常に興味深い会社であり、前から注目していた。2008年は88、2009年は99のサイトの立上げを行い、出来たサイトを放置して、ユーザーの反応に応じて、どのようなビジネスモデルにはめていくかを後から考える、という。確かに、これはインターネット時代の戦略としては、ある意味きわめて合理的とも言える。ユーザーにうけるサイトがいいサイトなのだから、評価はユーザーに聞くのが一番確かだ


但し、それだけの数のサイトを、このハイペースで次々と立ち上げることのできる力量があれば、の話だ。しかも、どのサイトも特異なユーモアのセンスが際立っている。これは簡単に真似ができるとは思えない。(Wikipedia吉田戦車の作品の説明を調べると、カフカを髣髴とさせる童話的な困惑空間を創り上げる作品、不条理ギャグ漫画』とあるが、カヤックのサイトもまさにこんな感じだ。)どうすればこのようなユーモアセンスが身に付くのか。天与の才能がなければだめなのか。 いずれにしても、今後とも注目すべき有望株だと思う。



あなたの黄金のフォーミュラは?


インターネットサービスは多種多様で、どんどん新しいものが出てくるが、ユーザー心理の方はそれほど急に変わるわけではなく、ある程度決まった法則性がある。マネタイズを実現したければ、一度は立ち止まって、私の仮説も思い出しつつ自分でも考えてみて欲しい。あなたの黄金のフォーミュラの報告を楽しみにしている。そして、第四回のマネタイズHacksで語り合いたいものだ。



<参考リンク>

第3回マネタイズハックス議事録 - yukawasaグループ
「第3回マネタイズHacks」参加 : チミンモラスイ?