Web2.0を勝ち抜いた企業が市場の支配権を握る日


Web2.0は金にならない?


Web2.0は金にならない』と切り捨てる人が最近周囲でも増えて来た。確かに、最近米国でも、広告収入を目論んだWeb2.0関連のビジネスモデルでは、儲からないという議論が数多く出て来ている。確かに、昨年来のサブプライムローン問題やガソリン高騰による米景気後退のあおりをうけているとは言え、今年4−6月のベンチャー企業IPO(新規株式公開)は30年ぶりにゼロとなったとの報道は、日本の関係者にも大変ショッキングなものだった。


日本でも、昨年話題先行ながら、大きな話題を提供してくれたセカンドライフの潮を引くような沈静化、日本を代表する、web2.0系ビジネスの日本の雄と言っていい、ニコニコ動画モバゲータウンの会員数増の鈍化等、本年に入って、明らかに潮目が変わった印象がある。


米国一極集中の終焉


米国の景気後退というが、これは短期的な変動ではない。9.11以降のアフガン、イラク戦争の影響が非常に深刻で、米国の国力は目に見えて落ちて来ている。例えば、基軸通貨のドルは、今世紀に入って7年半の間に、ユーロに対して7割下落し、米国のガソリン価格は今世紀に入って4倍に高騰した。一方、欧州は旧東欧諸国を含めて非常に大きなプレゼンスを持って来ている。巨大な潜在力が顕在化した中国とインドはもとより、資源高を背景に、ロシア(石油)、ブラジル(鉄鉱石)、アフリカ等が国力を増して、発言力も非常に強くなってきている。冷戦終了後のアメリカ一極集中によるグローバル化の推進という構図は、ここに来て完全に方向転換を迫られており、資源と環境が世界経済の中核的な課題へと一気に押し上げられて来ている。



国家の役割縮小と個人単位の競争


しかしながら、これは資源を巡って各国が争った、19世紀的な国家闘争への世界への逆戻りを意味しない。世界はITと金融技術の進歩により従来とはすっかり変わってしまっており、国家闘争どころか国家を経済単位とする経済社会の終焉といえるような状況が出て来ている。確かに世界はどんどんフラット化して、需要以上に供給が増えている。結果、企業競争は激化している。国家→企業→個人へと競争単位がシフトしてきており、逆に言えば、個人がIT/金融(財務)/コミュニケーション(語学)を持って参入することができれば、想像以上の成果を得るチャンスがある。明らかに、時代の様相が変化している。


今の時代に生き抜く智慧


このような変化の時代を生き抜くために、おそらく最も必要な才覚は、経済やビジネスのプロフィット・ゾーンのシフトを見逃さないで、しかも自らを変化させていく能力ということになる。困った事に、地殻変動が起きているからといって、暫時変化するというよりは、見えない変化が地殻を揺さぶり続けて、ある時急激なカタストロフィーが発生することが多いのが、経済社会での環境変化だ。


これをweb2.0に引き寄せてみると、ブログ、SNS、動画、モバイル利用によるWebサービスの拡大等の新規サービスの利用は、まだ日本の消費者全体で見れば、実験が始まったばかりというレベルだろう。はてなでブックマークをしたり、ブログを書いたりする人たちにとってはあたりまえのことが、一見かなりWebリタラシーがあると思われる人にとってさえ全くあたりまえではない、というのが、冷静に見た現状だ。ところが、その程度のレベルではあっても、メディア接触はそのものは非常に変化してきている。既存メディアからWeb系メディアへのシフトが進んでいる。




広告宣伝費の費用対効果プレッシャー


確かに、広告宣伝という点での、既存メディア、特にテレビのパワーは、規制に守られてきたこともあいまって、圧倒的で、なかなか簡単には他のメディアにシフトしないのではないか、という意見も根強い。だが、購買行動としてはほんの入り口でしかない、告知拡大のためにかかる費用(TV宣伝にかかる費用)は巨額であるだけではなく、費用対効果が大変見えにくい。大衆消費がもはや幻想だとすると、大衆的な認知促進の役割は相対的には下がり、顧客との対話的接触の役割が大きくなることは避けられない。


まして、消費者のメディア接触はますます多様化して、個人の時間シェアの奪い合いでは、既存メディアは防戦一方だ。単位当たりの広告効果を上げるためにも、既存メディアからWeb系メディアへのシフトは避けられないはずだ。企業競争激化とともに、広告出庫する企業の選択は、費用対効果の最大化を求めてシフトを志向する可能性は高い。これは、Nikeの最近のマーケティング施策を見るとわかると思う。自らSNSを運営し、既存メディアからWeb系メディアへシフトすることで、広告宣伝費を大きく削減する一方で、販売は拡大している。つまり、広告宣伝費の費用対効果を大幅に上げることに成功している。


Web2.0を勝ち抜いた企業が主役へ


大きな変化がおきる地殻変動は着々進んでいる。マグマは溜まっている。単体でのマネタイズが苦しいことは確かだろうが、企業のマーケティングが大きく構造変化するとともに、プロフィット・ゾーンが大幅にシフトして、一つのメディアとしてだけではなく、企業のマーケティングや経営をリードする役割を Web2.0のを勝ち抜いた企業が担うことになるのは、まちがいない。